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欧米におけるOPEXの潮流と日本における必要性ーその2

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じほう社<PHARM TECH JAPAN>2015年1月号・3月号掲載の、オペレーショナルエクセレンス論考第2回目です。

 

ヨーロッパでのOPEXコンファレンス

2014年10月20~22日に実施された「OPEX and Quality in Pharma and Biotech」というコンファレンスのスピーカー一覧が手元にある。このコンファレンスには,ファイザー,ノバルティスといった大手企業から,武田薬品工業,アムジェン,ルンドベック,キエージという中堅企業,そしてFDAからの参加者等がOPEXについての取り組みを共有している3

アジェンダには,「OPEXと品質を結びつける:真の品質実現に向けて」,「継続的改善の文化を根付かせる」,「EUと米国における品質関連法制」,「査察官の視点」,「継続的プロセス検証」等の演題が並んでいる。これらがすべてOPEXというキーワードの下で語られている。各国の製薬企業は,自分たちの今後を考え,その上で特定した課題(具体的な課題だけでなく,経営レベルでの組織風土改革等を含める)のためにオペレーショナルエクセレンスという考え方を自社化して取り入れている。「品質向上のためには,さらに追加人材や予算が必要だ。安全のためには,スピードを犠牲にしないといけない。そもそも品質と効率は同時に達成できない。このプロセスは変更できない」という話をよく聞く。これは製薬企業だけでなく,他業種でもそうである。しかし,日本はかつて新幹線を作り,今でも世界最高水準で運営している。新幹線は安全で品質(乗り心地)が高く,効率(定時運行,1日あたりの運行本数,相対的なコスト)も高い。海外企業も新幹線と同等の高速鉄道を作ろうとしているが,どの海外企業もまだ日本の新幹線が達成しているレベルでの総合的なシステムでの成果は上げていない。

これと同じことが,日本の医薬品製造の拠点でできないわけがないではないか。いま日本の医薬品製造の現場,サプライチェーンにも,企業運営の全般にとってもまさにオペレーショナルエクセレンスという考え方が必要とされている。そしてその実践のうまさが,生き残りの大きな条件の1つになることを知ってほしい。その理由を見てみよう。

 

日本の製薬企業におけるOPEXの必要性

 日本の製薬企業でなぜOPEXが必要とされているのか,全体像から考察を進めてみよう。世界の医薬品市場は2000年から2010年にかけて,3,628億ドルから8,612億ドルへと成長,その一方で,日本の市場シェアは15.9%から11.2%に下落し,欧州(ドイツ,イギリス,フランス,イタリア),北米,日本などの国「以外」のシェアが25.6%から35.6%になっている。新興国への対応が課題になっている4

 そのなかで,グローバルのシェアこそ落ちているものの,日本における医薬品の生産額は,2010年で6兆7,791億円5である。OTCも含めた全市場の伸びは鈍いが,医薬品に限っていえば,2000年の5兆4,259億円から6兆1,489億円と,約13%の伸長だ。その内訳を見ると剤形の多様化が進んでいる。

 低分子を中心とした従来型の固形製剤から,バイオ等,さまざまな剤形への対応が必要になってきていることは,今後にも続く傾向としてあげられよう。特に抗体医薬については設備投資も含めて,これからまだ多くの学習が必要である。

 国内製薬企業では,製造部門を子会社化するなどし,製造部門全体のあり方を問うような戦略が練られている。その一方で,外資系製造拠点は世界中の製造拠点と品質・安全・効率で比較され,競争にさらされている。製造拠点はグローバルに統一された基準でランキングされ,下位の製造拠点は容赦なく淘汰される。

 こうした環境のなかで,製造も含めた拠点を日本に持つ理由は,単に世界第3位の市場であるというだけでは足りなくなっている。製造拠点としての価値をグローバル本社も納得できるように発揮できなければ,「日本は包装工程のみでよいではないか」という結論が出されることもありうるのではないだろうか。一方では,昨今進むCMOの活用も今後さらに進むであろう。企業側の戦略的意思決定とも呼応するかのように,2014年4月からエーザイ美里工場を傘下に収めた武州製薬のような例も出てきている(エーザイからの事業譲渡の発表は2013年11月)。

 高品質を誇ってきた日本の医薬品製造の拠点が,その品質を維持しながら,しかし効率にも着目しなければ生き残っていけない状態は,待ったなしどころか,もう現実のものとなってきている。今こそ,品質を維持しながら効率も含めた「新幹線経営」を目指すときなのではないだろうか。(つづく)(前章はこちらから)

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 ■注記

3)http://pharma.flemingeurope.com/quality-OPEXconference/speakersより引用

4)IMS,日本製薬工業協会ホームページほか

5)厚生労働省「薬事工業生産動態統計調査」平成22年度

欧米におけるOPEXの潮流と日本における必要性ーその1



製薬イメージバレオコン・エグゼクティブ・セミナーも期日が迫って参りました。セミナーを開催するにあたり、じほう社<PHARM TECH JAPAN>2015年1月号・3月号に掲載していただいた、弊社メンバーによるオペレーショナルエクセレンス論考をこれから数回に渡り掲載してまいります。

セミナーにご参加予定の皆様も今後のご参加をお考えの皆様もぜひご一読いただければ幸いです。

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欧米におけるOPEXの潮流と日本における必要性           

“OPEX for Pharmaceutical Industry : Trends in Europe/US and Necessity in Japan”

 By 石川忠幸,鈴木正隆, 太田信之

はじめに

本稿では,欧米,インド,中国の製薬,医療機器メーカーなどで取り組まれているオペレーショナルエクセレンス(海外ではOPEXと称されることが多い)の紹介を行う。

OPEXとは,文字どおりこうした会社内すべての「業務(オペレーション)」を「秀逸なもの(エクセレンス)」にしようという試みである。それは規制に対応するというレベルを超えて,「今の業務(後述するが,「経営」も業務の1つとしてとらえるところがOPEXの特徴である)をより良くするために何をするか」という変化を起こす考え方であり,方法論である。

 まず製薬企業の現状,特に製造拠点が置かれている環境にすこし目を移してみたい。

 日本当局のPIC/S加盟とともに,医薬品製造の現場はますますグローバル標準への対応が求められている。ICH Q8(製剤開発),Q9(品質リスクマネジメント),Q10(医薬品品質システム)に加えて,Q11(原薬の開発と製造)等の各種ガイドラインについても,その解釈と対応に追われているのが現状であろう。

 定性的な表現であるが,こうした各種ガイドラインに準拠すべく業務を進めていると,ともするとすべてを決められたとおりにすることが業務の第一優先になってくることもあるのではないだろうか。一方で,欧米のメガファーマ,インド,中国ではOPEXという考え方を持ち込み,各種規制やガイドラインに対応するなかでも安全・品質・効率の全体バランスを達成するための活動に取り組んでいる企業もある。外資系も含め,日本に製造拠点を持つすべての製薬企業が,これからさらに大きな変革に立ち向かうことになる。その舵取りの役に立てていただきたいという一念から本稿を執筆した。

OPEXが必要とされる背景

 OPEX導入の背景として,2011年に著者の1人が本誌で指摘したときと環境は変わっていない1。その際記した環境変化は,M&A等を通じたメガファーマ誕生の一方で,その結果が新薬開発に結びついていないというものだった。その状況は変わっていない印象を受ける。そして,日本だけでなくグローバルにパテントクリフが製薬企業の経営に影響を及ぼしている。

2014年になってからは,ファイザーがアストラゼネカの買収を試み,合意には至らないものの再提案をするとの憶測も流れている。こうした巨大化のためのM&Aの一方で,GSKとノバルティスの間で,GSKの抗がん剤事業をノバルティスが買収,ノバルティスのワクチン事業をGSKが買収,OTC事業は統合という内容でのM&Aが検討された。これまでの巨大化とはすこし質を変えたM&Aの提案だが,これはさまざまな医療分野での変化をも反映しているようだ。

一方医療分野では,これまでにない変化が起きている。再生医療などの先端技術を駆使した個別化医療等,新規のノウハウや技術を用いた医療技術が生まれ,細分化された患者ニーズへの対応が可能になる等,製薬企業の経営に新しいインパクトが生まれている。

こうした変化のなかでも,製薬企業には株主からの財務的な要請,安全,品質の要請,各国の規制当局(安全,品質)や社会保障予算からの制約要因(薬価の下落)という複雑な経営環境のなかで,一見矛盾するような要請のすべてを調和させる経営が求められている。

このように複雑な経営環境のなかで,患者のために薬を「創って」,「作って」,「届ける」という基本的な業務をしっかり回すための経営力,現場力は欠くことができないものである。現場での詳細な作業から,中間管理職の行う伝達,資源配分,人材育成,経営陣の行う明確な方針の策定と決定など,会社内のさまざまなレベルでの業務の高度化ができなければ,今後の経営環境への対応はできない。

OPEXという言葉は,冒頭で説明したように「業務」を「秀逸にする」という概念である。そのために必要なツールは各企業が考え,最適と思うものを導入すればよい。日本が誇る製造業の現場改善は「カイゼン」という言葉になり,今や外国の製造業や,製薬業界の製造拠点でも通用する概念となっている。

そしてカイゼンを方法論としてとらえると,QC,TQMにはじまり,シックスシグマ,制約理論等さまざまな方法論がある。OPEXといわずとも,問題解決力のある企業は自分たちの経営課題の解決に最適なツールを取捨選択し,自社内に広めている。どの方法論が優れているかという議論を超えているといえよう。目的を達成するために必要なツールを選んで,自社で使いこなせるように消化し成果を出す,というあたりまえのことを行っている。

「業務を秀逸に行う」という基本そのものに反対できる人はいないであろう。そして,各社ともにさまざまな方法論を吟味しながら,各社ごとの固有状況や目的に応じて自分たちなりのOPEXを定義し,社内に展開する。これが欧米各国で行われているOPEXである。(続く)

■注記

1)太田信之 「製薬業界におけるオペレーショナル・エクセレンス 第1回製薬業界におけるオペレーショナルエクセレンスとは」Pharm Tech Japan Vol.27, No.4(2011), pp35-41