メディア」カテゴリーアーカイブ

欧米におけるOPEXの潮流と日本における必要性ーその4

OPEXイメージ4

じほう社<PHARM TECH JAPAN>2015年1月号・3月号掲載の、オペレーショナルエクセレンス論考第4回目です。

共通の方法論

 こうして,課題をしっかりと選定し,適切な人材で体制を組んでプロジェクトを立上げ,定期的に進捗をモニタリングするという体制を作ることさえできれば,大抵のプロジェクトは進み出す。こうしたところまできてはじめて,方法論にスポットライトがあたる。問題を解決する,という根本的なレベルにおいて,全員の共通言語となるような方法論が必要になる。

 すこし前に「流派で競争するには意味がない」という趣旨の説明をした。大切なことは,この取り組みに参加する人全員が共通言語として使えるようになる方法論を導入することである。その定着のためには,研修やOJTを含めたコミットメントが必要になる。大抵の場合は,導入の中心になる事務局を中心として,どの方法論を使うかを決める。時には自社にフィットする方法論を定め,時には汎用的なものでなく,内容をすべて「自社化」させる。

 筆者が知る多くの製薬企業では,「自分たちの方法論」ということにこだわり,世間で著名な方法論のいいとこどりをして,再編集し,それに「◯◯◯ウェイ」(注:ウェイ,というのは「〜流のやり方」という趣旨の英語,way)と名前をつけるなどして,自社化して定着を図っている。

 極端ないい方をすれば,どの方法論でも筋が良いものであればよい。しかし,結果的にはOPEXの中核をなす方法論としてはDMAIC(Define(定義),Measure(測定),Analyze(分析),Improve(改善),Contro(l 定着)の5つのステップの英単語の頭文字)という5つの基本ステップを使った,シックスシグマを土台にしていることが大半だ。DMAICという枠組みはOPEX同様に汎用性が高く,ISOにも取り入れられている。

 このDMAICについては,次回それぞれの段階についての詳細を,実際に行われた「溶出性の改善」を目的としたプロジェクトのステップと関連付けて詳細に説明する。今回は,某欧州系のメガファーマにおけるOPEX全体の取り組みの事例を簡単に紹介する。

 この会社では,すでにOPEXに取り組んで10年になる。社内の問題解決の標準的な「型」として,DMAICを参考にしながらも,全部で4つのステップを用いて再整理をし,世界中で育成トレーニングと同時に,プロジェクトの支援をしている。特筆したいのは,この会社ではこの4つのステップを基にしながら,「情報システム部門によるプロジェクト」や「リスクマネジメントのための方法論」等,応用される機能部門や,課題内容に応じたケースやテキストをさらに作り込み,全世界で同じコンテンツを使って取り組みを実践していることだ。

 社内イントラネットには,プロジェクトマネジメントのための方法論,ツール,テキストがすべて格納され,最初にプロジェクトの概要を入力するだけで,推奨される進め方の詳細や,使われるテンプレート,過去の事例などが参照できるようになっている。

 日本からもこの方法論の構築に参加され,半年にわたって本社のプロジェクトPMO部門に長期出張して,内容の作り込みに関わったということである。この企業では,最近では自社内への展開だけでなく,製造拠点のサプライヤーに対してもこのプログラムを提供し,このやり方で原材料の受け入れや購買プロセスについての課題を双方で話し合い,改善することに役立てている。

 次回は,DMAICという方法論のステップの詳細を説明する。その際,参考としてある製薬企業で実際に行われた「フィルムコート錠剤の溶出性改善」というプロジェクトで使われたツールを引き合いに出していく。

 

まとめ

 第1回のまとめは,大きく分けて3つある。

・ 日本に製造拠点を置く製薬企業にとって,品質・安全・効率を調和させることが急務である。

・ OPEXとは,「業務を秀逸にする」という趣旨で,規制を守るだけでなく競争力の高い拠点を作るために必要な考え方である。

・ 課題の全体像を整理し,適切な体制を組み,共通の方法論を使うことが必要である。

(つづく)(前章はこちらから)

バレオコン・エグゼクティブ・セミナー<お申込受付はこちらから>

■注

4)IMS,日本製薬工業協会ホームページほか

5)厚生労働省「薬事工業生産動態統計調査」平成22年度

欧米におけるOPEXの潮流と日本における必要性ーその3

OPEXイメージ


じほう社<PHARM TECH JAPAN>2015年1月号・3月号掲載の、オペレーショナルエクセレンス論考第3回目です。

OPEX導入と立上げに必要なこと:課題設定,体制構築,共通の方法論という流れ

具体的に,OPEXを導入するとはどのようなことなのだろうか。

まず大切なことは,何をなすべきか,課題を設定することを考えることである。次に大切なのが,誰がどんな体制でそれをやるかということである。そして,そのとき組織の共通言語になるように,全員が同じ方法論・考え方で課題解決に臨むことが大切となる。この順番が重要であり,逆にしてしまうと目的と手段が逆になってしまう。

これはどういうことなのか,すこし説明を加えたい。OPEXは,会社経営全般について等しく有効な概念であり,グローバルメガファーマでは最近注目を浴びるマーケットアクセスなどの新しい製薬マーケティングの考え方も,OPEXの中に取り入れて活動している。本稿では,読者にわかりやすい例を提供するために,仮にある製薬製造拠点(工場)でOPEXを導入するという状況で話を進める。

 さて,ある程度の規模の製薬企業では,国内外に複数の製造拠点を持っている。すべての拠点で共通する課題もあるかもしれないが,実際にはその課題が発生している状況まで含めて考えると,課題はすべて拠点ごとに異なる。現場レベルの問題から,工場全体の資源配分という意思決定まで,レベルはさまざまである。そうした状況では,拠点として今何に取り組むべきかを最初に決める必要がある。同時に,これは取り組まない(優先順位を落とすか)という意思決定をすることも意味する。短期的にすぐやらなければいけないこと,数カ月から1年ほどの間に取り組まなければいけないこと,数年単位のこと。時間軸だけとっても,いくつかの整理の仕方がある。

 こうしたなかで課題設定をするとき,「すべてやる」というのは誤りである。結果をしっかり出すためには,限られたヒト・モノ・カネという資源を適切に投入する必要がある。資源を分散するのではなく,この先のことも考えた上で取り組むべき課題を特定して,その課題を徹底的に解き,成果を上げる。これが第一歩となる。

 OPEXの導入に伴い,拠点のリーダーである工場長を筆頭に,意思決定に関わる役職者,そして品質関係だけでなくサプライチェーンや営業まで含めた体制で,一度は「課題設定」をしっかり行う。本稿では「課題設定」の具体的な内容には触れない。しかし,この課題設定をしっかり行い,何に取り組むのかを決めることが最重要である。例えば「A薬品の出荷検査の短縮」等の具体的な課題,その前段にもうすこし広い範囲で「効率」,「品質」などのキーワードレベルで,どのくらいの優先度合いにするかなどである。

 こうした「キーワード」は課題という意味では上位課題にあたり,Big Yと呼ばれることが多い。このときのYは,Y=F(X)のYである。Xという変数を組み合わせ(Fという函数により),求める結果(Y)を出すという概念のなかで,より上位の課題をYとして大文字で示す。そして,結果を出すための重要な変数であるXについては,それ自体が小さな課題である,という視点で便宜上yと小文字で表し,ここでもy=f(x)という関係を見つける。こうして,大きな目的のYを達成するために,課題を整理して出てきた,すこしレベルの小さい課題yが,プロジェクトとして取り組まれる単位になることが多い(図1)。

図1

 課題の議論では,できるだけ定量化することが必要である。厳密な数字はなかったとしても,例えば1日のことなのか,数日なのか,数週間なのか,何人が関わることなのかなどである。こうした定量化は優先順位を決める際の重要な手がかりとなる。最初の課題設定を行う際に集まる人々の大部分が,その後行われるプロジェクトのレビューにも出席することになる。意思決定をして,実施を決めた課題の解決状況についての進捗共有や,必要であれば適切な支援を行うためである。

 続いて,その課題を解くために最適な人材を,担当の持ち場という縦割り意識を超えて集める。工場全体の今後を考えるという点で選ばれる課題の大きさを考えると,たとえ課題が製造現場の秤量にあったとしても,出荷の段階のものであっても,その解決には品質保証や物流,情報システムなど組織を超えた人材の協力が不可欠になる。

 体制を作るなかで,プロジェクト実施に関する役割は大きく分けて3つある。1つは「チャンピオン」と呼ばれ,プロジェクトの結果に責任を持ち,そのために資源配分や,最終的な解決策の導入を意思決定できる役職者である。余談だが,チャンピオンとは「擁護者」という意味合いで,プロジェクトを担当させ,成功に導く応援をし,結果にも責任を持つという意味合いだ。 次に実質的に解決策を出すためにチームをリードする役割の「リーダー」が必要となる。リーダーの役割は,チャンピオンから提示された課題を,与えられた期間内で目標達成できるだけの解決策を出すことである。そのために3つ目の役割である「チーム体制(メンバー)」を選び,全体の問題解決を文字どおりリードすることになる。

 大抵の場合は,まず「リーダー」が「チャンピオン」と話し合いながら,プロジェクトの実行に必要なメンバーを決める。前述のように,必ずしも単一組織ではなく,むしろ組織横断的にメンバーが選ばれることを考慮すると,メンバーの選出にあたってはその上司の了解が必要になってくる。

 こうしたときも,課題設定の段階から意思決定者レベルの役職者が集まって議論することが重要になる。必要なメンバーをさまざまな部署に要請し,正式にメンバーになってもらうように働きかけることは,チャンピオンの最も大切な仕事だ。実質的にリーダーが行うことも多いが,ここでチャンピオンがしっかりした働きかけをしないと,メンバーやその上司にとってもプロジェクトの必要性,優先順位という点で誤ったメッセージを送ってしまうことになる。

 そして,最後にこうして選ばれたメンバーは,リーダーと協力しながら課題解決のためにさまざまなタスクの実行により貢献することになる。結果的にプロジェクトが提案する解決策を出すときには,その導入の実務を担う可能性も高い。

 こうしてチャンピオン,リーダー,メンバーという体制が1つのプロジェクトで必須になる(図2)。図2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大抵の場合,最初の課題設定の段階で複数の課題が選ばれ,複数のプロジェクトが立上がることになる。多くの場合,月に一度は複数プロジェクト全体の様子がどのようになっているかなど,プロジェクト全体の進捗を共有し,優先順位等について再確認するための全体進捗会議のようなものが開催される。出席者は工場長をはじめとして課題設定の議論に参加した責任者級が理想である。そのなかで,リーダーとチャンピオンがほかの出席者に対してプロジェクトの進捗や成果について報告を行う(図3)。

図3(つづく)(前章はこちらから)

バレオコン・エグゼクティブ・セミナー<お申込受付はこちらから>