オペレーショナルエクセレンス論考第6回目です。

各フェーズに求められる具体的成果と実施要件とは、

①Define(定義)フェーズ

 Defineフェーズの最も重要な成果物(アウトプット)はチャーター(あるいは,プロジェクトチャーター)と呼ばれる活動内容を定義した書類である。チャーターには複数の記述項目が求められているが,特に重要となるのは「問題の記述(改善すべき問題状況の具体的説明)」,「改善指標(顧客※要求事項と改善レベルを示す具体的測定項目)とその目標到達値」,および,「ビジネスケース(経営の観点からの活動の必要性や優先性で,効果金額を含む)」であり,3つの間の整合性が重要であることはいうまでもない。何(問題とその評価指標)を,なぜ(ビジネスケース),どこまで改善(経営視点に基づく目標値)する活動なのかを具体的定量的,かつ合理的に定義する。

※ここでいう顧客とは,プロジェクトで取り上げられている課題から,良くも悪くも直接的な影響を受ける個人やグループのこと。%e5%9b%b3%ef%bc%92

 これらの内容は,リーダーとチャンピオンが協議して決定する。前述のとおり,ビジネス面からの実施の必要性等の情報提供,および活動を実施していくための組織横断的な人材やその他のリソース確保をはじめとする環境整備は,チャンピオンの責任となる。一方これらを前提としたうえでの活動の実行・目標達成はリーダーの責任となる。チャーターはこうした責任を互いに確認するという「契約書」的な目的も併せもつため,チャーター内容の確定後,両者が署名して合意を確認する。「はじめ良ければ道半ば」というが,長い期間を要する改善活動では特に活動の基盤をしっかりと固めることが重要であり,それがDefineフェーズの役割となる。図2はDMAIC活動の中でのチャンピオンとリーダーの関係と責任分担の概略を示している。

 なお,活動の進捗に応じて,チャーターの初期の記述内容がMeasureフェーズでの収集データやAnalyzeフェーズでの分析結果により変更される場合には,チャンピオンの承認の下にリーダーがチャーターを更新する(生きた書類,すなわちLiving Documentと呼ばれる)。図3は過去に実施された「フィルムコート錠剤の溶解性改善」のDMAIC活動のプロジェクトチャーターの一部を抜粋して示したものである。ここでも「問題の記述」がその後の収集データ分析を受けて更新(太字部分)されている。

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②Measure(測定)フェーズ

図4

 Measureフェーズの主な成果物は2つある。1つは改善しなければならない指標が,本当に今どの程度“悪い”かを,信頼できるデータ収集を通じて具体的に認識し直すことである。Defineフェーズで最初にチャーターに示す問題の記述はあくまでも“感じ”であり,“真実”ではない可能性がある。Measureフェーズでのデータ収集により初めて真実が客観的に確認される。もう1つの成果物は,改善指標を悪くしている原因候補についてのデータを同時に収集し,次のAnalyzeフェーズでの分析に必要十分な準備を整えることである。

この原因候補データ収集でたいへん重要となる事前作業がある。それは原因「候補」の徹底した洗い出しである。この洗い出し作業が不十分で根本原因が分析に含まれていないと,せっかく時間と労力を注ぎ込んでデータ収集し分析を行っても「真の根本原因」を特定できず,期待ほどの結果が出せない原因となってしまう。実際そうした残念なケースは想像される以上に多い。

 ここで必要となるのは,改善指標に影響している“かもしれない”可能性をもつ原因候補をあらゆる視点から検討し,“とりあえず”すべてを検討のテーブルに一度はのせるという心構えである。「事実は小説より奇なり」は改善活動でも同様であり,十分な成果を出すには「可能性を安易に排除しない」ことが重要なのだ。

 図4はこの原因候補の洗い出しに一般的に使われる特性要因図(石川ダイアグラム,Fishbone)であるが,材料,機械,方法,測定,環境,人という切り口の英単語の頭文字を取った5M1P(Material, Machine, Method,Measure, Mother Nature, Person)の切り口でブレーンストーミングを実施している。

 このほかにもプロセスマップやBOB&WOW(Best of Best, Worst of Worstという名称のツールの略称)等多様なツールがある。これらを使って徹底的に検討することで原因要因の見落としをなくすことが大きな成果につながる確率を向上させる。

 さらに,洗い出した原因候補を活動チーム全員のディスカッションを通じて精査しデータ収集しておくべき項目に絞り込むことで,Analyzeフェーズで行う分析に有用なデータを提供できるデータ収集のしっかりした基盤を作り上げる。

改善指標については統計ツール等を用いて問題の深刻さ(現状の工程能力等)を定量的に確認しておくとともに,グラフ化することで収集したデータの概観を理解し同時に分析の方向性を確認することも,続くAnalyzeフェーズ以降の活動を効果的に進める重要な鍵となることが多い。

 %e5%9b%b3%ef%bc%95%e2%88%92%ef%bc%92図5は,Measureフェーズでの現状認識(改善前の工程能力等)を見える化したものである。Miniabという統計解析ツールを使った収集データのビジュアル化と現状の定量化である。サンプル収集したデータからの歩留りだけでの評価以上に,「将来的な品質保証」という観点から,Cpkでの工程能力評価が改善指標に盛り込まれている。

 

③Analyze(分析)フェーズ

 Measureフェーズで収集されたデータを分析し,改善指標が好ましい状況にない主要な原因(根本原因)を分析し合理的に絞り込むのがAnalyzeフェーズの目的である。このとき適用される分析ツールは,収集データの形態や分析目的によりグラフツール,仮説検定,実験計画法等,プロジェクトの内容で異なる。闇雲に高度なツールを試すのではなく,適切な分析ツールを正しく選択して使いこなすことが,根本原因を効率的に特定する必須条件となる。根本原因といえるほど大きな影響を及ぼす原因は決して多く存在することはなく,1~3つ程度である。この考え方は,根本原因を絞り込む際の重要な視点である。Defineで定めた目標を達成するためには,分析ツールを適切に使うことが大切だ。より大きな影響を持つ原因(根本原因)への絞り込みにより,活動全体の効率を上げることにつながる。

%e5%9b%b3%ef%bc%96  図6は事例となっているプロジェクトで,絞り込みのためのツールとして,収集データの分析に用いた統計ツールと解析の結果を示した一覧表である。結論欄に「有意」と示された原因要因だけが根本原因の可能性があることを示唆している。

 

④Improve(改善)フェーズ

 ImproveフェーズではAnalyzeで最終的に特定された少数の根本原因に対し,「最も効果的な対策」を選択し具体化する。この「最も効果的な対策」を選ぶためには,「複数の対策案候補」がなければならない。ここでもMeasureフェーズで測定項目を精査したのと同様の心構えと手順が求められる。これまでの経験だけではなく知識や想像力も動員して, 問題を発生させない対策(Preventive Action)と発生した問題を即座に発見して修復する対策(Corrective Action)の両面から対策案を検討のテーブルに上げ,その中から「Best of Best」の対策を選択できれば,チームメンバーおよび対策案が導入される現場関係者の納得感が高まり,導入時のサポートも得られやすくなる。図7は複数の改善策候補を最終的に絞り込むための評価基準の1例であるが,一般的な経営の視点と,ときどきの特別な事情を総合して勘案した評価基準を揃えることが重要となる。図5

 選ばれた改善策を実行する前に,もう一手間をかけなければならない。改善策案はこれまで実施されてきた業務プロセスとは異なる手順等を組み入れることになるため,そこにはまだ「認識できていない潜在的な危険性」が残されている確率が高いと考えるべきである。

 そこで新たに導入する改善策をFMEA(故障モード影響分析)等によりリスクを検証し必要な修正をしておくことが,次のControlフェーズでの改善策導入時の不安や抵抗を低減することにつながる。また,実施計画を導入先となる業務担当部門の責任者や担当者とともに立案することで,協力関係を整えておくことも重要なステップとなる。事例のプロジェクトでも,プロジェクトチームと導入先部門が協力してFMEAを実施し,いくつかの事前対策を施した後,改善策の導入を実施している。

 

⑤Control(l 定着)フェーズ

 Controlフェーズは改善策を現場に導入し,検証した改善効果を定着し維持させるベースを形成して改善活動を終了する最終フェーズである。終わりが見えたときに足をすくわれるというのは改善活動でも同じであり,安易に活動を終了してはならない。

ここまでの活動は改善のプロジェクトチームが中心となって推進してきており,何が重要な鍵であるかを熟知しているといえる。一方,新しい業務プロセスを導入する現場は,責任者も担当者も決してそうではない。多くの場合,そこに落とし穴がある。実際,多くの改善活動で比較的短期間に活動の効果が薄れていくという状況が見られるのも,このControlフェーズが不十分であることが原因となっている場合が多い。

このためControlフェーズでは,改善の結果が導入先の現場でも期待どおりの成果が得られることを確認して活動の成果を実証すると同時に,これが適正に維持されているかを確認するためのモニタリング方法を計画し導入することが重要な実施内容の1つとなる。図8は事例プロジェクトで活動成果の確認とその後のモニタリング指標として使用した「個別管理図(Individual Control Chart)を示す。%e5%9b%b3%ef%bc%98

モニタリングの対象は改善指標が改善されたレベルで維持されているかももちろんであるが,さらに重要なモニタリングの対象は,改善指標に大きな影響を及ぼすことがAnalyzeフェーズで明らかにされ,Improveフェーズで対策された根本原因が「対策された状況」で維持できているかである。前回述べた“y=f(x)”という考え方に示されるとおり,改善指標(y)は根本原因(x)の結果である。つまり,原因(x)さえ適正に管理していれば,結果(y)が必然的に適性に維持されるからだ。

この“x”(“y”も)の維持状況を(できれば,リアルタイムに)モニタリングして活動の成果が維持されていることを確認し,もし異常があれば即座に正常状態への復帰作業に着手することができるような仕組みやルールを構築しておくことが,最終的にControlフェーズでの主眼となる。

さらに,モニタリング指標や異常時の対応ルール等を他の重要な経営指標(KPI, Key Performance Index)と統合して一括管理することで,業務の運営状況を一目で確認できるダッシュボード(通称)として,経営判断の迅速化を図ることも可能となる。

 

各フェーズの必要要件

 これまでの説明に加えて,各フェーズで重視すべき要点を簡単に記述しておく。各フェーズで,「次のフェーズの十分な基盤を築く」という視点で読めば,要点はいっそう明確になると思われる。

 Define(定義):何(Measureの中心となる「改善指標」)を,なぜ(ビジネスケース),どこまで(目標値)改善するのかを経営的視点に立って明確化する。

 Measure(測定):Analyzeフェーズの分析が十分な意味を持つよう多方面からの原因候補を網羅してから絞り込んだ上で,改善指標と一緒に信頼性の高いデータ収集を行う。

 Analyze(分析):Improveフェーズでポイントを絞った改善策の検討を行えるよう,適切な分析手法により確度の高い分析を実行し,根本原因を特定する。

 Improve(改善):Controlフェーズで確実な改善効果が得られるよう,Analyzeで特定された根本原因への最善な改善策を選定する。現場導入が無理なく実行できるよう,現場との協力の下に事前評価を的確に実施する。

 Contro(l 定着):導入した改善策が現場に定着し期待される成果を維持し続けるよう,根本原因を中心にモニタリングを構築する。

 DMAICをはじめとしたOPEXでよく使われる方法論の特徴は,この必要要件に示されるように,目的達成志向が強いことだ。そしてその目的達成は,課題設定から始まる。

 チャンピオンとリーダー,メンバーが大きな課題背景を共有し,お互いの役割を果たしながら,ステップを踏んで問題解決を進めることで,設定された個別課題の解決効率と効果が上がる。

 以上でOPEXに使われる代表的方法論,DMAICの概説を終わる。DMAICの流れそのものについて説明すると,最もよく聴くフィードバックは「あたりまえ」,「ツールはもう知っている」というものだ。しかし,繰り返しになるが最も大切なことは,課題の設定,そして役割を明確にしたチャンピオン,リーダー,メンバーという体制づくりだ。こうした基盤があって,初めて共通言語となる方法論の効果が最大限発揮されるのである。(了)

じほう社<PHARM TECH JAPAN>2015年3月号より転載