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欧米におけるOPEXの潮流と日本における必要性ーその5


Generation Nextじほう社<PHARM TECH JAPAN>2015年1月号・3月号掲載の、オペレーショナルエクセレンス論考第5回目です。

前ポストまで製薬業界でなぜOPEXへの取り組みが進んでいるのか,その全体像について解説した。ここからは,OPEXのなかで用いられる代表的な方法論であるDMAICについて,事例とともに解説する。実際に課題解決を行う際の体制と,各フェーズごとの進め方が中心となる。

OPEXに使われる代表的方法論・DMAICの概説

(1)DMAICとは

 DMAICは,OPEXのプロジェクトを進めるための代表的な方法論の1つである。Defi ne(定義),Measure(測定),Analyze(分析),Improve(改善),Control(定着)という5つのフェーズのそれぞれの頭文字をとった略称である。現状の業務プロセスを悪化させている根本原因を,業務プロセスデータの分析によって特定したうえで,効果の高い解決策に絞り込んで改善を実施して目標を達成する。最初にシックスシグマという方法論が生まれた際に,その進め方として生まれた。なお,当初D(定義)は含まれておらずMAICのみであったが,本稿ではそうした詳細の経緯は割愛する。

 DMAICは,普遍的な方法論の枠組みとしてさまざまな手法を包含している。例えば,1つはトヨタ生産方式にヒントを得て,ムダ取りを中心として「リーン」と総称されるようになった方法論だ。生産性の改善に特化して“リーンシックスシグマ(Lean Six Sigma)”としてDMAICの枠組みで体系化された。もう1つは,業務一般の生産性を含むあらゆる問題解決に適用可能な“汎用型DMAIC”である。

 DMAIC以外でOPEXに使われる方法論としては,業務担当者が経験等に基づく改善案を管理者に具体的に提示して,改善案実施の可否判断を求めるタウンミーティング(GEでは「ワークアウト」と呼ばれ,現場視点で即効性のある改善とその実現のための手法として知られる),現状の業務プロセスの改善に頼らず,新しい業務プロセスを最初から築き直そうとするDFSS(Design For Six Sigma)等がある。

 OPEX導入時には,自分たちの将来方針に照らして現在のビジネス状況を分析して改善すべき問題を体系的に洗い出す課題設定が必要だと前回解説した。あげられた課題に沿って適切な人材で体制を構築したうえで,それぞれの課題解決の方向性(目的)に対処するために採用する方法論(タウンミーティング,DMAIC,DFSS等)も整理することを推奨している(図1)。

 

(2)DMAICの大まかな流れ

 前述のとおり,DMAICはDefi ne(定義),Measure(測定),Analyze(分析),Improve(改善),Control(定着)の5つのフェーズに沿って活動を進めていくが,各フェーズの大まかな実施内容は以下のとおりである。

・Define(定義):改善活動内容の明確化と関係者間での共有と合意

・Measure(測定):改善すべき問題に関わる定量的・客観的現状認識(業務プロセスの確認,データの収集等)

・Analyze(分析):収集データの合理的分析による根本原因の特定

・Improve(改善):特定された根本原因に対する改善策の多面的検討と選択

・Contro(l 定着):改善策の現場への導入,定着による成果の維持

 このように記述すると極めてあたりまえの改善プロセスと思われるが,この“あたりまえ”を“あるべき姿”と捉え,そこに可能な限り近づけるために一歩一歩実施していくのがOPEXの理念である。DMAICが他の手法に比べよく使われる理由は,ステップとして共通言語にしやすいという利点と,各ステップに応じて定められたアウトプットを出すためのツールが充実していることがあげられよう。

 Defineフェーズでは活動内容がチャンピオンとリーダーの間で合意される(本誌2015年1月号の連載第1回を参照)。その合意がプロジェクトチャーターというツール(以下,チャーター。後述する)への署名によって確認されない限り,プロジェクトの見切り発車的な開始はない。同様にMeasure以降の各フェーズについても,フェーズ終了時にトールゲートレビュー(以下,レビュー)と呼ばれるチャンピオンによるフェーズ成果の確認と承認がない限り,次のフェーズには進めないというルールが決められている。

 またこのレビューには,シックスシグマという方法論の観点からの実施・決定内容の合理性を判断するために,社内のシックスシグマ専門職や社外コーチが同席することを推奨している。言い換えれば,レビューを通過し次のフェーズに進むには,それぞれの視点・責任が異なる3者が共同で責任を負うということである。前述した課題設定からの連携した責任展開と合わせて,活動が決してリーダー個人の責任にならないように配慮しているだけでなく,こうして役割と責任を分けるほうがプロジェクトの実行性も高まる。

 各フェーズについての幾分詳細な説明は,具体的なプロジェクトを例としながら次回より行う。(つづく)(前号はこちらから

欧米におけるOPEXの潮流と日本における必要性ーその4

OPEXイメージ4

じほう社<PHARM TECH JAPAN>2015年1月号・3月号掲載の、オペレーショナルエクセレンス論考第4回目です。

共通の方法論

 こうして,課題をしっかりと選定し,適切な人材で体制を組んでプロジェクトを立上げ,定期的に進捗をモニタリングするという体制を作ることさえできれば,大抵のプロジェクトは進み出す。こうしたところまできてはじめて,方法論にスポットライトがあたる。問題を解決する,という根本的なレベルにおいて,全員の共通言語となるような方法論が必要になる。

 すこし前に「流派で競争するには意味がない」という趣旨の説明をした。大切なことは,この取り組みに参加する人全員が共通言語として使えるようになる方法論を導入することである。その定着のためには,研修やOJTを含めたコミットメントが必要になる。大抵の場合は,導入の中心になる事務局を中心として,どの方法論を使うかを決める。時には自社にフィットする方法論を定め,時には汎用的なものでなく,内容をすべて「自社化」させる。

 筆者が知る多くの製薬企業では,「自分たちの方法論」ということにこだわり,世間で著名な方法論のいいとこどりをして,再編集し,それに「◯◯◯ウェイ」(注:ウェイ,というのは「〜流のやり方」という趣旨の英語,way)と名前をつけるなどして,自社化して定着を図っている。

 極端ないい方をすれば,どの方法論でも筋が良いものであればよい。しかし,結果的にはOPEXの中核をなす方法論としてはDMAIC(Define(定義),Measure(測定),Analyze(分析),Improve(改善),Contro(l 定着)の5つのステップの英単語の頭文字)という5つの基本ステップを使った,シックスシグマを土台にしていることが大半だ。DMAICという枠組みはOPEX同様に汎用性が高く,ISOにも取り入れられている。

 このDMAICについては,次回それぞれの段階についての詳細を,実際に行われた「溶出性の改善」を目的としたプロジェクトのステップと関連付けて詳細に説明する。今回は,某欧州系のメガファーマにおけるOPEX全体の取り組みの事例を簡単に紹介する。

 この会社では,すでにOPEXに取り組んで10年になる。社内の問題解決の標準的な「型」として,DMAICを参考にしながらも,全部で4つのステップを用いて再整理をし,世界中で育成トレーニングと同時に,プロジェクトの支援をしている。特筆したいのは,この会社ではこの4つのステップを基にしながら,「情報システム部門によるプロジェクト」や「リスクマネジメントのための方法論」等,応用される機能部門や,課題内容に応じたケースやテキストをさらに作り込み,全世界で同じコンテンツを使って取り組みを実践していることだ。

 社内イントラネットには,プロジェクトマネジメントのための方法論,ツール,テキストがすべて格納され,最初にプロジェクトの概要を入力するだけで,推奨される進め方の詳細や,使われるテンプレート,過去の事例などが参照できるようになっている。

 日本からもこの方法論の構築に参加され,半年にわたって本社のプロジェクトPMO部門に長期出張して,内容の作り込みに関わったということである。この企業では,最近では自社内への展開だけでなく,製造拠点のサプライヤーに対してもこのプログラムを提供し,このやり方で原材料の受け入れや購買プロセスについての課題を双方で話し合い,改善することに役立てている。

 次回は,DMAICという方法論のステップの詳細を説明する。その際,参考としてある製薬企業で実際に行われた「フィルムコート錠剤の溶出性改善」というプロジェクトで使われたツールを引き合いに出していく。

 

まとめ

 第1回のまとめは,大きく分けて3つある。

・ 日本に製造拠点を置く製薬企業にとって,品質・安全・効率を調和させることが急務である。

・ OPEXとは,「業務を秀逸にする」という趣旨で,規制を守るだけでなく競争力の高い拠点を作るために必要な考え方である。

・ 課題の全体像を整理し,適切な体制を組み,共通の方法論を使うことが必要である。

(つづく)(前章はこちらから)

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■注

4)IMS,日本製薬工業協会ホームページほか

5)厚生労働省「薬事工業生産動態統計調査」平成22年度